諸行無常の朝
早朝の海は異空間だ。
まるでこの世界とは別の世界へ来たみたい。
波の音しか聞こえない。
すぐ足元まで押し寄せる波が砂の色を変えて、
何もなかったみたいに引いていく。
時折大きな波が生まれて轟音を出して、
無数の白い泡を作ったかと思えば、次の瞬間には何もなかったみたいにまた消えていく。
早朝の海を眺めていると高校生の時にひたすら暗唱をさせられた
平家物語の冒頭を思い出した。
祇園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらはす。
奢れる人も久からず、
ただ春の夜の夢のごとし。
猛き者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵におなじ。
何億年も前から海はこうして活動を繰りかえして
同じように見えても一秒ごとに形を変える。
そんな海の活動と比べると
私の一生なんてひと時の夢のようなもので、
さらに今の私の感情なんて塵でしかない。
それが良いとか悪いとかではなく
人の一生なんてそんなものなんだ。
悩みがちっぽけに思えてくる。
感情に振りまわされている自分が見える。
心が洗われるとはこういうことなのかなと
少しだけ分かった気がした朝でした。