next stage

人生の岐路で感じることを伝えたい

ある観葉植物の物語(短編小説)

私は小さな観葉植物としてこの世に生を受けた。手のひらサイズの大きさになった頃、私は生まれ育った畑を出て、トラックの荷台でまる2日運ばれていった。その道中、私は生まれて初めて海を見た。荷台に張られたシートの隙間から見た海は、とても眩しくて、太陽を受けてキラキラ光っていた。これからどこへ運ばれるのかは分からない、でも、きっとこれから素敵なことが起こる。そう予感した。店に着いてそうそうに私は他の子たちと一緒に店頭に並べられた。街の小さなお花屋さん。不機嫌そうな店員は慣れた手つきで無造作に私たちを四角い箱に並べてゆく。時折聞こえる彼女のため息がまるでこの店の空気を作っているような、なんとも埃っぽい空気のお店だった。小さな手書き文字で「385円」と書かれた紙が貼られた。隣の真っ赤な子にも「385円」その隣の背が高い子にも「385円」。みんな違うのに真四角の箱に並べられて、同じ値段。値段って何なんだろうな。その日も私はそんなことをぼんやり考えていた。お昼前、足早に店の前を通り過ぎる人の中にまっすぐこちらに歩いてくる人がいた。それが、あなただった。あなたは私たち1人1人を優しい目で見つめながら何かを想像しているような、いたずらっ子のような表情を浮かべていた。一歩、また一歩、あなたの足が私に近づく。私の心臓の鼓動が早くなる。ついに来た。あなたが両手でそっと私を抱え上げる。目と目が合う。まつ毛が少し茶色。キラキラした瞳がトラックで見た海を思い出させる。緊張して肩がすくむ。そんな緊張でガチガチの私を見てあなたは少し緩んだような表情になりレジへ向かった。この日からあなたとの生活が始まった。あなたは私の定位置をベランダの真ん中の部屋から見える位置に設定した。毎朝カーテンを開けてあなたは私に挨拶をする。私もおはよう。と返す。あなたには届かない。あなたは時々、思いつめたような顔をして私の葉を触りながら、調子はどう?なんて言う。私は上々だよ。と返す。でもあなたには届かない。大雨や台風が私は大好きになった。だってあなたが私を家の中へ入れてくれるから。あなたの側にいられる。ベランダに置かれた小さな白いイスにあなたが座って、星空を眺める。そんな時はあなたに私は生まれ育った農園の話とか、思いつく限り色んな話をする。聞こえないのは分かっているけど、あなたが泣いているから、なんとかなぐさめたくて。そしてそんな時、私は最後はいつもこう言った。「元気を出して。私がいるじゃない。」そんな幸せな日々は淡々と過ぎて、私にも枯れる日がやって来た。生き物の宿命の死を私は畏れてはいない。あなたと過ごした日々は心から幸せな日々だったと思えるから。きっと優しいあなたは、すぐに枯れた私に気がついて、出会った日のことを思い出し悲しんでくれるだろう。それだけで私は充分に幸せな一生だった。土にかえり、またその土から新たな植物となり、またあなたの側にいられたらいいな。

あの日見た青い海のような青空の下で私は目を閉じた。